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手のひらの中の大自然。秦野でのびのび、豆盆栽。

Bonciao(ボンチャオ)
葉住直美さんの世界

監修…高田美実(器・生活道具 日和 店主)

 

趣味で盆栽を育てていた父と弟と一緒に、
幼い頃から自分の盆栽を育てていた葉住さん。
大人になった今、
自分の中に浮かぶ『景』を、
豆盆栽の世界で表現している。

 

懸崖(けんがい)の樹形をしている五葉松の豆盆栽。
螺旋状の枝ぶりが力強い。鉢の直径は3センチにも満たない。
鉢を裏返して台にしているのも、粋でかっこいい。

 

シャー、シャーと、
土に水がかかる音がしている。
葉住直美さんは、
所せましと並んだ、小さな盆栽に、
じょうろを傾けている。
雨のように柔らかい水が盆栽を濡らす。
10月の、
秋晴れの空は澄み渡っていて、
水がめには
オタマジャクシが数匹泳いでいる。

 

秦野市寺山。
山あいのこの場所に、
葉住さんの弟である、椎野健太郎さんが
運営する盆栽屋『宝樹園』がある。
そしてその中の一角に建っている小屋が、
葉住さんのお店
『Bonciao(ボンチャオ)』だ。
店内の棚に置いてあった
豆盆栽を見ていると
「これはお客様からの預かりものです。」
と葉住さん。
水やり不足なのか、
元気がなくなってしまった
盆栽を預かって、
管理をしているのだそう。
盆栽の状態に不安があるときなどは、
販売後も相談にのっている。

 

 

『宝樹園』は2004年に開園。
九州、四国から北海道まで、日本全国の銘木を集める。

 

左の建物が葉住さんのお店『Bonciao(ボンチャオ)』。
小屋は知り合いに作ってもらったそうだ。
「古い建具を先に見つけていたので、それに会わせて建ててもらいました。」

 

 

 

カエルや小屋などの、盆栽に飾る小物も可愛い。

 

外には、鳥取の川で採れる、
濡らすと透明感が増す
きれいな砂の敷かれた水盤に、
ぽつぽつと豆盆栽が並ぶ。
葉住さんが作るのは、
手のひらに乗るくらいの大きさの
小さな盆栽だ。
小さいものでは
鉢が直径1センチほどしか無いが、
ちゃんと木や苔が植えてある。
「ただ植えるのではなく、
小さいながらにきちんと『景』が
でるように、作っています。」  

 

『景』がでる、とは、
大自然の風景を凝縮して
盆栽の世界に落とし込むことをいう。
「例えばこれは『懸崖(けんがい)』といって、
枝や葉が根より下に
垂れ下がるように作っています。
大自然で言うと、
断崖絶壁に頑張って
しがみついているような、木ですね。」
なるほど、
実際は小さいのに、
雨や風にも負けない
力強い松に見えてくる。
情景が思い浮かぶのは
良い盆栽の証拠なのだという。

 

このような良い盆栽を作るには、
良い素材が必要になる。
葉住さんは、
種や苗や挿し木から
素材を育てている。
最初はひとつの鉢に
何十本も一緒に育て、
ある程度大きくなったら
一本一本鉢に分けて行く。
「これは3年くらい経っていますね。」
ひょろっとした高さ5センチほどの、
かわいい小さな松の
様子を見ながら葉住さんは言った。
「こんな風に、
石とくっつけて育てると、
『石付き盆栽』になります。」と
見せてくれたのは、
小さな石に針金で留められている
小さな松だ。
松が成長すると
石に食い込んでいき、
一体化するのだ。
「石も趣があるものを選んでいます。」
こちらは売り物になるまでには、
あと30年ほどかかるのだそう。
気が遠くなるような世界なのだ。
「これは父が昔から育ててる松で、
もう30年くらい経っていますね。」
20センチほどの高さの
松がずらっと並んでいた。

 

植えてから3年ほど経った松まだまだ小さい。 

 

父・ 哲男さんが30年前に植えた松。

 

葉住さんと弟の健太郎さんは、
幼い頃から父・哲男さんの
趣味の盆栽を見て育った。
「小さな頃から、
父と並んで盆栽の植え替えをしたりして
遊んでいました。」
小学生の頃は、
勉強机にいくつも
自作の盆栽が並んでいたそうだ。
その長年培ってきた感覚は
今に繋がっていると言う。
「大きい盆栽をやっていたから、
豆盆栽でも、
きちんと『景』が出るように
作れるんだと思います。」
と葉住さんは言う。

 

「盆栽を植え込む時には、
すべての盆栽が、
生き生きとして、
キラキラ輝くことを目指しています。」
そう話す葉住さんの目も、
とてもキラキラと輝いていた。

 

土や砂は、葉住さんオリジナルのブレンドだ。 

 

空の下、2つ並んでいる作業テーブルは、
回転する仕組みになっていて
重い盆栽を回しながら剪定ができる。
父・哲男さんと並んで作業をすることも。 

 

 

水盤に砂を敷きその上に盆栽を乗せると、
砂にも水分が蓄えられるので、盆栽が乾燥しにくくなるのだそうだ。
また、
「いくつか(豆盆栽が)増えてきたときにも、
そのまま動かせるので便利ですよ。」と
葉住さんが教えてくれた。

 

愛犬のメイちゃん。毎日一緒に出勤している。

 

葉住直美 はすみ・なおみ/
2014年に秦野市にてBonciao Galleryをオープン。
盆栽や道具・鉢を扱う。
盆栽のある生活を通して、
四季を感じる暮らしを提案している。
また、日本に纏わるしつらえを掲げて、器、
雑貨、お洋服なども手掛けている。

 

:おとなりさんvol.7 2015.11.1発行号 掲載記事


葉住直美さんの本が出版されました。

いちばんやさしい苔盆栽と豆盆栽