橘出張商店街
商店街をお届けします
橘出張商店街
商店街が住宅地へ「出張」した時、
そこには懐かしくて、
やさしくい風景があらわれる。
風のようにやってきて、
楽しい笑い声を残して次の場所へ。
それはまるでキャラバンの用に
様々な交流を生み出す。
そこへ行けば、
小さな町を楽しむ答えが
きっと見つかる。
草いきれのグラウンドに、忽然とあらわれた青空出張商店街。
緑に囲まれ、まるで物語のよう。
橘商工会の軽ワゴンが
出張商店街到着のアナウンスを流す。
「ト〜プ〜」と、
お豆腐屋さんが懐かしい
例のラッパを吹く。
それぞれの移動販売車で
はすばやく「開店」の準備が完了して
すでに近所の家から集まってきた
お客さんたちと、
2週間ぶりの挨拶をかわしている。
これは橘の住宅団地で
月に2回
第2と第4日曜日に
見られる光景である。
日常生活に必要なお店たちが
軽トラ、軽ワゴン、普通の軽自動車、
業務用の販売スペースのある車など、
それぞれ様々な車種に乗って
何台も集まり、一緒に売りにきてくれる。
その名も「出張商店街」。
名前はひねりゼロだが、
なんとも懐かしいような
ウキウキするような響きである。
懐かしいお豆腐屋さんのラッパも、出張商店街の到着を知らせる。
常連さん。
出張商店街には八百屋さん、
魚屋さん、パン屋さん、
お米屋さん(灯油も配達)、ペット用品、
それにお豆腐屋さんまでそろっている。
普段はお肉屋さんなど
さらに2店舗ほど多いそうだ。
今日は、
地元の神社のお祭りがあり、
自治会の役員もしているお肉屋さんは
そっちへ出かけてしまっている。
お客さんから
「今日はお肉屋さんは?」
と聞かれるたびに
「今日は白髭神社のお祭りに行ってるよ」
なんて返される会話も、
まさに商店街的だ。
販売場所は7カ所。
8時20分からスタートし、
利用客の多い少ないで
それぞれ販売時間を20分と30分にわけて行い、
時間になったら片付けて
すぐに移動を繰り返し、
12時までにはすべて回り終える。
品揃えの方は、
例えば八百屋さんでは
新鮮なキュウリが5、6本入って50円、
国産のニンニクが150円 など、
スーパーで買うよりも安いし、
なにより商品の半分は
自家栽培ものという贅沢さ。
魚屋さんもいきなり
大間の本マグロがあったり、
パン屋 さんはこだわりの天然酵母だったり、
豆腐屋さん手づくりにこだわり、
湯葉刺しや、おからで作った
焼きドー ナッツなんかもあったり、
お肉屋さんには大人気の
「チビ橘メンチ」と
「チビ橘コロッケ」があったりと、
まるで小さなデパ地下のよう。
これで出張までしてくれるなんて、
なんかずるい。
うちの近所にも
来てくれたらいいのになんて、
つい思ってしまう。
魚屋さんは他にも色々揃えている。
橘団地の中道が商店街に早変わり。
コミュニケーションをとりながらの買い物は楽しいのだ。
こだわり天然酵母のパン屋さんが家の近くに出張してくれるなんて!
1個だと多すぎる南瓜を半分に切ってお客さん同士でお買い上げ。
手前から、お豆腐屋さん、パン屋さん、魚屋さん、一番奥が八百屋さん。
各店のスタンプシート。10個たまるとサービスがある。
買い物をすると金額に関係なくもらえるポット花のサービスも大人気。
「最初は、うまくいくのか
全くわかりませんでした。
だから、住民にアンケートを
とったんです。」
出張商店街を取りまとめている
周東さんが教えてくれた。
橘団地の一般住宅と共同住宅は、
当時 まだ足柄下群 だった橘町が
小田原と合併して小田原市になった
昭和46年にできた。
昭和56年頃にはさつきが丘団地が完成し、
その他に若葉台団地や湘南橘台団地と、
5団地あわせると、
その世 帯数は約700世帯に
のぼったそうだ。
それでも大規模な
スーパーマー ケットが出店するほどの
商圏とはならず、
唯一あった共同店舗も、
その後近隣の中里や二宮に出来た
大規模な商業施設におされて
なくなってしまった。
これはつまり、当時の橘の人々は
誰もが車でそうした大型店舗へ
出かけていき買い物をしていて、
しばらくの間は、
それで不自由はな かったということでもある。
しかし、それから40年も経過すると、
高齢化社会日本のご多分にもれず、
橘団地も団地全体で
高齢化を迎えた。
つまり高齢者の1人、
ないしは2人世帯が多くなったのである。
年を取って自分で車に乗ることが
出来なくなると、
徒歩圏内にお店のないこの地域では
途端に日常的な買い物に
困ってしまうということになってしまったのだ。
出張商店街があったら利用したいか
というアンケートは
自治会の全面協力で行われた。
「それでも最初は、
利用したいか わからないという
答えが多かったんですが、
少なからずニーズがあることも
わかったし、
あとは自分たち次第。
まぁやってみようよと
お店さんたちに声をかけて、
やっと1年間の
試行スタートにこぎ着けたんです。」
しかし、
このアンケートが思わぬ効果を
もたらした。
アンケートに関わったことで、
自治会長や住民たちが
出張商店街への関心をもち、
販売場所の選定や、
開催の告知に全面的に
協力してくれるようになったのだ。
つまり、
アンケート調査自体が意図せず
出張商店街の
プロモーションとなり、
その後のスタートを助けたのだ。
ふたを開けてみると、
お客さんはどんどん集まり出し、
常連さんも出来た。
杖をつきながらの人たちには、
近所まで売りにきてくれるというのは
どんなにありがたいことだろう。
その気持ちがお店の人との
やり取りにも見て取れる。
みんな楽しそうに
軽口をたたき合い、
笑い声が絶えない。
お客さん同士も立ち話をしたり、
お土産を渡したり、
まさに束の間の古き良き
商店街の光景だ。
小さい子どもを連れたお母さんや、
家族連れも多く、
なるほど、
他にも「出張」してくれる
商店街の恩恵を受けている人は
多いようだ。
そして、こういう環境で
育った子どもたちが大人になり、
次はどういう町をつくっていくのか、
それも楽しみになる。
橘の出張商店街は現在3年目。
今はもうすっかり
団地の人々の生活の中に
定着している。
出張商店街スタッフ、橘商工会の市川さん。
最後の場所が終わり、やっと自分のお買い物。
橘商工会の周東さん。出張商店街のよろず世話役。
影となり表となり、 この活動を支えている。
出張商店街を実施している、橘商店 会の小森会長。
自治会の役員も兼任しているため、この日は白鬚神社の祭礼へ。
その前に出張商店街の集合場所へいらしたところをパチリ。
出張する商店街の風景
:おとなりさんvol.2 2014.8.1発行号 掲載記事
※この情報は2014年8月現在のものです。
橘商店会の出張商店街
毎月2回第2・第4日曜日開催。
出張箇所やコース順等、
詳しくはホームページをご覧ください。
「出張商店街」
http://shoko.aka2ki.net/