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思いやりの桜。

思いやりの桜。

不法投棄地帯をきれいにし、
そこに植えた桜で毎年花見をする。
一過性で終わらず、
次につながる原動力は
「思いやる」こころ。

 

ここに一枚の資料がある。
「小田原市曽比地内酒匂川右岸の堤内地の
(曽比85番地、有限会社伊藤製作所東側)
青少年のサイクリングコース下辺一帯が
家電製品、タイヤ、
自転車など廃棄物の不法投棄場所となり、
永い間放置されてきた。
この解決のため、曽比地区
住民は所管する県松田土木事務所と協議
を行う。
恒久的に不法投棄を無くすためには、
周辺一帯を桜の植樹を行い、
景観地域として整備と美化を計画的に管理・
運営することで合意した。」

 

これが「曽比・桜愛好会設立の経緯」
である。

 

長年手のつけようのない不法投棄地域だった。
数年前までこの状態だったとは信じられない。

 

春先3月半ば。
準備の段階からお話をと思ったので
開場1時間前の11時頃についたのだが、
会場に着くとすでに受付のテントと
紅白の幕が張られている。
その奥には、
まだ若くて背が低く華奢な印象なものの、
満開に咲いたおかめ桜が一列に並んでいる。

 

土手の傾斜にはオーディオに
つながれた拡声器のお化けのような
スピーカーが無造作に置かれ、
そこからは演歌が流れている。
堤防を見上げるとその向こうに
見事な青空が広がっている。
会場を挟んだ反対側には菜の花畑が、
これまた見頃をむかえて綺麗な黄色い花を
緩やかな風にゆらせている。

 

今日ここに集まっているのは
曽比の桜愛好会の皆さん。
これから毎年恒例のお花見が行われるのだ。
すでにゴザが敷かれて、
その上に机がせっせと運ばれていく。
次におつまみやおにぎり、
ビールが机ごとにセッティングされていく。
楽しそうである。
「曽比・桜愛好会」では、
年に3回の草刈りと、
年2回の病虫害駆除を行っている。
会員はなんと200名ほどいるそうだ。

 

 

 

 

お昼頃になると、
徐々に桜愛好会ではない
近所に住む家族連れなど一般の方たちも
集まってきて、
会長の相川さんのあいさつでゆるやかにスタート。
子どもたちは土手をかけ上がったり、
綿飴の機械で会員の方たちに
教えてもらいながら汗を流して真剣に
自分の綿飴を作ったりしている。
大人たちは、桜の樹の下
(というかまだ華奢な少年のような
若木なので、近くで)
つかの間の開放感に顔を緩ませていた。

 

お花見への参加は会員でなくてもOKで、
むしろ歓迎している。
もちろん桜の会への勧誘や、
募金も一切ない。
不法投棄のない環境を今後も維持していくには、
みんなが普通に見にくる
景観地域にしなくてはいけないと
考えているからだ。
だから会員以外は料金も必要ない。
みんなの場所だからだ。
おつまみや、お酒も無料。
これはサービス。
会員も昔は無料だったが、
今は会費制でひとり500円。
これも、そうして少しでもお金を取らないと、
各自がご祝儀を持ってきてしまい、
大変なことになってしまうかららしい。
だからとりあえず会員は
ひとり500円にしたが、
それでも十分あまってしまうそうで、
今のところこの宴会の資金面での問題は
まったくないようでうらやましい。

 

 

 

 

来場者にいろいろ配給されていく。
我々(編集部)もポップコーンとおにぎりをゲット。

 

世話役の釼持政司さんは、
「俺たちがやっていて、
まさか子どもの喜ぶものまで用意してるとは
みんな思わないでしょ?
だから、かわいいお菓子とか
色々用意しておくんだよ。
そうすると喜ぶんだよ。
ここで思いっきり走り回れたりさ。
子どもを喜ばせたいんだよ。
で、大人になって
地域から巣立って行くときに、
思い出の一つも持たせてやりたいんだよ。」
と、小声で教えてくれた。
子どもが「地域から出ていかないように」や、
「地域に帰ってきてくれるよう」
ということではなくて、
「思い出を持たせてやりたい」
というところに、
この「曽比・桜愛好会」の方たちの
地域に対する「こころ」を見た気がした。

 

ただ純粋に同じ地域の
人々を思いやっているのだ。
本物の地域コミュニティとは、
かくも素晴らしいものなのかと、
感動の宴であった。

 

曽比さくらの会 会長の相川さん。
一人、桜に寄って行き眺める
なんとも言えない眼差しが
印象的であった。

 

世話役の剱持政司さん。
来る人来る人に声をかけて、
席を案内したり、
お酒を渡したりと、
ずっと動きっぱなし。

 

綿飴の宅配サービスも。

 

綿飴作り中、生徒1人に先生6人!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

:おとなりさんvol.5 2015.5.1発行号 掲載記事