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笑って、踊って、みんなで繋ぐ!

笑って、踊って、みんなで繋ぐ!

伝統芸能の継承というと
なんだか堅苦しくて難しそうだけど、
ここではみんな、なんだか楽しそう。
大人も子ども一緒に練習
失敗しては笑いあう。

 

 

7月の蒸し暑い夜。
相模湾を一望できる、
絶好のロケーションに立つ
『根府川公民館』には
小さな子どもたちから、その親、
また、その親の世代に、
さらにその上の長老クラスまで、
約100人ほどが集まっていた。

ここは、小田原市の中でも
湯河原よりに位置する
相模湾に面した傾斜地にある根府川町である。
この一帯は片浦地区とも呼ばれ、
柑橘類の栽培が有名なところだ。
海岸線ギリギリまで迫る山の斜面で
栽培されているみかん畑やレモン畑から
太平洋を眺める景色は絶景で、
まさに海と空と山の三拍子揃った
風光明媚な土地でもある。

そんな根府川の人々が
代々受け継いでいる有名な伝統芸能がある。
「鹿島踊り」という神事舞踏で、
「神奈川県無形民俗文化財」に指定されている。
根府川は石材の産地で、
石船(石材運搬船)に関わる仕事をする人々が
多かったため、海や船、航海に関わりのある
「鹿島信仰」が定着し、
「鹿島踊り」も伝えられるようになった。
古くより7月の15日に
根府川の鎮守である寺山神社の例大祭で、
航海安全、悪疫退散、
豊漁祈願として、奉納されていたが、
昭和40年代に入ってからは
毎年7月の第3日曜日に変更され、
以来続いている。

 

「鹿島踊り」はもともと常陸国(茨城県)鹿島神宮の鹿島信仰から
伝わったと考えられているそうだ。
「小田原市郷土文化館研究報告」の「根府川の民俗芸能「鹿島踊り」と
「福おどり」について」(浜田和政・著)の中で
「その常陸国の鹿島神は航海神であるという信仰とは別に、
東国にあって絶えず神託する予言性も重んじられていた神であった。
その鹿島神の神託に基づいて下級神人が正月の年頭から諸国に触れ回った
「事触れ」の鹿島信仰がある。
それは広範囲にわたり広まり信仰のされたもので、
その姿は白衣に烏帽子、襟に幣束をさすという独特の格好をしたものであった。」とあり、
その衣装が今日でも根府川の鹿島踊りに
名残を見せていることに小さく感動する。
また、寺山神社の祭神も常陸国の鹿島神社と同じ武甕槌命(たけみかづちのみこと)だ。

 

踊りの衣装は、
本来白張浄衣・烏帽子に幣束
(畳んだ神などを木に挟んだ
お祓いなどに使う道具)と、
扇を持つ形だが、
最近では揃いの浴衣も多い。

現在、この根府川の鹿島踊りは
根府川自治会の
「根府川寺山神社鹿島踊保存会」の
みなさんが保存と継承の活動を行っている。
昔の踊り手は若衆組という
家業を継ぐ一家の長男である
青年たちに限られていたが、
時代の変遷に合わせるように
青年団の男子と少し対象が広がり、
昭和50年代に入ると
小学校四年生以上の男の子も加わり、
さらに昭和60年代になると
女の子も参加できるようになり、
学年も小学校三年生以上となり、
幅広い年齢層になっている。

練習は本番の一週間前から
毎日夜の7時から公民館で行われる。
6時半頃着くと、
続々と人が集まってきて、
子どもたちは海を望む
最高のロケーションの公民館の駐車場で、
絶景には目もくれず駆け回って遊んでいる。
公民館の中では、
子ども会のお母さんたちが慌ただしく、
しかし手際よく机などを並べている。
7時少し前に町内放送でこれから
鹿島踊りの練習が始まるという
呼びかけがかかり、
7時ちょうどにスタート。
さすが代々続いているだけあって、
スケジュール通りにスムーズに事が運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

練習は、踊りと、歌に分かれる。
男性たちと、
子どもたちは全員駐車場で踊りの練習。
まだ本番には参加できない
小さな子たちも、練習には参加する。
そうするうちに
自然に覚えてしまうそうだ。
1年ぶりにウォーミングアップするような
和やかな雰囲気で練習が始まる。
しばらくして、
通しの練習が始まった。
間違えると、
まわりの指導係の先輩方から
すかさず
「しっかりしろー、ぼけるなー(笑)!」の
声がかかり、笑いを誘う。
まだ踊りの輪のなかに
参加できない小さな子どもたちも
食い入るように見つめている。

歌の担当は、
子ども会のお母さんたち。
鹿島踊りの際には
本来歌を歌いながら踊るのだが、
この歌が非常に難しい。
まず、側で聞いていても、
なかなか言葉がわからない。
上の句と下の句があるそうなのだが、
それをゆっくりかつ、
上の句と下の句を
行ったり来たりしながら進んでいくらしく、
覚えるのも一苦労。
あまりにも難しすぎるため、
最近では子ども会のお母さんたちが
本番まで毎日歌だけを
専門で練習して
担当するという事になったそうだ。

根府川の子どもたちが通う
片浦小学校は
市内のどこからでも通える小規模特認校。
そのため、
学校が終わった後の鹿島踊りの練習にも、
市内の他の地域から通う
生徒たちも参加していると聞いて驚いた。
親御さんたちは、
街中では中々体験できない事を
子どもに経験させてあげたいと
考えているそうだ。

もしかしたら、
これからの
伝統芸能の継承の形というのは、
この根府川地区の
鹿島踊りのように、
地域の人間だけでなく
色々な人が参加しやすい、
開かれた環境に
その活路があるのかもしれない。

 

寺山神社総代
勝又一夫さん
「子どもへの継承が使命だと思っています。
末長く繋げていきたい。」

 

根府川自治会長
廣井博直さん
「特認校の子どもたちが半分以上いる。
若い人の参加も増えて地域の活性化に
繋がってきていて喜ばしい。」

 

根府川寺山神社鹿島踊保存会 会長 
内田正之さん
「特認校の子どもたちも参加し、
大きくなっても一緒に踊って欲しい。」

 

根府川・寺山神社 鹿島踊りの風景

 

 

 

 

 

 

 

:おとなりさんvol.6 2015.8.1発行号 掲載記事

 


2017年 開催情報

開催日:7月15日 夜宮祭 鹿島踊り 午後7時半頃〜
    7月16日 本祭り 出の鹿島踊り 午前10時頃〜
              納の鹿島踊り 午後4時半頃〜
    
会場:根府川 寺山神社